税金安くして家失う
(税金安くして家失う)
弁護士が,法律相談を受ける際,避けて通れないのが税金の問題です。
「夫が離婚に際してマイホームを妻に渡す。」という事例を考えてみましょう。
詳細はここでは述べませんが,離婚の際の財産分与には,夫に「譲渡所得税」が課されることがあります。
この点を勘違いしていたことにより,財産分与そのものが無効になることもあり得ます
(最高裁第1小法廷平成元年9月14日判決参照)。
そこで,この「譲渡所得税」発生を避けるため(譲渡所得に関する証明の手間を省くため),離婚前に夫が妻にマイホームを「贈与」することも考えられます。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例があるからです。
しかし,夫に借金があった場合,この「贈与」は,債権者の強制執行を免れるためであるとして,債権者によって取り消されることがあります(詐害行為取消)。
債務超過にある人が,自分の財産を,タダであげる(贈与する)ことは,財産隠しに他ならないからです。
この場合,たとえ「譲渡所得税」がかかったとしても,きちんと「財産分与」しておけば,財産分与として相当な分は詐害行為取消を免れ得ます(最高裁昭和58年12月19日第二小法廷判決参照)。
税金を払わずにすむために,「贈与」で登記をしておきながら,後で「財産分与」であると主張しても,その主張は困難です。なぜなら,「登記はその記載事項につき事実上の推定力を有するから,登記事項は反証のないかぎり真実であると推定すべきである。」(最高裁昭和46年6月29日第三小法廷判決)とされているからです。
「税金安くして家失う」の典型例です。
このように,「夫が離婚に際してマイホームを妻に渡す。」という事例ひとつとっても,法的な側面及び税金の側面双方からの検討が必要になるのです。