虚偽自白の心理(1)
私が弁護人の1人を務める、ある再審事件の関係で、我が国における供述心理学の第一人者である浜田寿美男先生のお話を聞く機会があった。 もちろん、著書は購入し読んでいる。 しかし、本を読むのと直接お話を聞くのでは、得られるものが桁違いだ。 浜田教授の言う、『無実の人ほど、虚偽の自白に陥りやすい面がある』という点は、刑事弁護に携わっている実感としては、これまでもあった。 しかし、なぜそうなのかはこれまで真剣に考えたこともなかった。 無実の人が取調室で陥る心理状態は、 『何を言っても一切聞いてもらえない。』 というものであり、これが密室で、1日何時間も23日間続くのである。 一方真犯人が取調室で否認する心理状態は、 『聞いてもらえなくて当たり前』 と言うものだ。 どちらが心理的に『落ちやすい』状態と言えるか? 取調のプロである警察官、検察官に、素人が『弁解』というコミュニケーションによって対抗しようとするのは、至難の技だ。 それこそ、私は、素人がダルビッシュの球を打返すようなものだと思っている。 だからこそ、憲法及び刑事訴訟法で保障されている『黙秘権』と言う、一切のコミュニケーションを遮断することができる権利が重要なのだ。 しかし、23日間、目の前にいる人と、コミュニケーションの一切を遮断できる強さを持った人がどれほどいるだろう? 〜続く〜