その金、どこいった!!!(弁護士業務と粉飾決算)

その金、どこいった!!!(弁護士業務と粉飾決算)

民事訴訟は、つまるところ「お金の問題」に帰着する。
その意味で、お金の流れを追うことが重要な作業になることが多い。

また刑事訴訟でも、経済事犯の場合、やはりお金がどのように流れたかを追うことが必要となる。

お金の流れを追うに当たって、基礎資料となるのは、やはり損益計算書、貸借対照表、総勘定元帳などの帳簿書類である。

資本主義における経済活動は、つまるところ、
「金を集めて、投資して、利益を上げる」という点に帰結する。

これを、普段よく目にする決算書類に落とし込むと、次のとおりとなる。

⑴  お金を集める=BSの右側
 ア  負債の部(借入等の他人の金)
 イ  純資産の部(株主資本等自分の金)
⑵  お金を投資する=BSの左側
 資産の部(集めたお金で工場建物機械設備を買う)
⑶  工場建物機械設備を使って売上て、経費を支払い利益を上げる=損益計算書
この、決算書類の作るために行う複式簿記は、非常にすぐれものであり、
「純資産」「負債」「資産」「収益」「費用」の、わずか5つの項目だけで、すべての取引や事象を説明できる。

さらに、たったひとつの取引であっても、その取引が、「金を集めて、投資して、利益を上げる」という経済活動全体のどの部分に位置づけられるのかが明確に分かる。

備品のボールペンを買う行為は「資産」としての現金が減り、「費用」に計上された結果、純利益が減り「純資産」の減少につながる。

総勘定元帳や決算書類は、決して数字の羅列ではない。

複式簿記をゲーテは、
「真の商人の精神ほど広い精神、広くなくてはならない精神を、ぼくはほかに知らないね。商売をやってゆくのに、広い視野をあたえてくれるのは、複式簿記による整理だ。整理されていればいつでも全体が見渡される。細かしいことでまごまごする必要がなくなる。複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。人間の精神が産んだ最高の発明の一つだね。」(ヴィルヘルム・マイスターの修行時代)と評したが、全く頷ける。

さて、この複式簿記によって作られた決算書類であるが、粉飾決算もよくなされる。

この粉飾の痕跡を見出すことは、たとえば破産事件などにおいて、破産者の隠し財産を探す際にも必要であるし、詐欺的な商品を販売した会社等の責任を追求していく場合にも有用となることがある。

ここでは、そのひとつとして「仮受金」に着目したい。

仮受金は、内容や金額が分からないうちに受け取ったお金を指す。
この仮受金は、受け取った段階では「後で本来の勘定科目に振り替える義務」があるため、BSの「負債」に位置づけられる。

(粉「悪」決算の事例)
ある会社がどうしても利益を出したくない事情がある場合(たとえば計画倒産を考えていて財産を隠したい場合)、将来的には、PLの「売上」、「特別利益」などの収益として認識しなければならないものを、とりあえず、負債としての「仮受金」として仕分けておく。

そして、負債としての「仮受金」の反対科目である「普通預金」は、じゃんじゃん「費用」として使ってしまう(この「費用」として流出した先に隠し財産がある可能性もある)。

そうすると、BSには「仮受金」という負債が残り続けるため、債務超過であるかのような外観が存在し、入ってきたお金が「収益」とも認識されないため、PLも良くないように見える。

いよいよ、「仮受金」を収益として上げたときには、「仮受金」という「負債」も消えるけれども、入ってきたお金もなくなってしまっている。

(粉飾決算の事例)
さらに、どうしても利益が出ていると見せかけたい場合も「仮受金」科目を用いた粉飾決算がなされることもある。

粉飾会社が協力会社に1000万円貸し付けたとする。
当然、粉飾会社は、「普通預金」という資産が減って、「貸付金」という資産ができる。

これを協力会社は、内容が分からない「仮受金」として認識してしまうのである。
そうすると、協力会社には普通預金という資産と、仮受金という負債がバランスする。
協力会社は、これを粉飾会社に戻すに当たって、反対仕訳をすれば、協力会社としては、普通預金という資産が減って、仮受金という負債も減るだけであり、分からない金が入って出ていただけとなる。

一方、粉飾会社は、これを「収益」として認識してしまう。
こうすると、粉飾会社の「短期貸付金」という「資産」が「収益」に化けてしまう。

その結果、粉飾会社は実態のない「収益」が発生する。
また、協力会社に対する 「短期貸付金」は、まったく実態ののないにもかかわらず、「資産」が存在しているかのような外観が作り出される。

幼稚で子供じみた手法ではあるが、現実に目にするものでもある。

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