天下のザル法は変わるか?(民事執行法改正要綱案)

天下のザル法は変わるか?(民事執行法改正要綱案)

 平成30年8月31日法制審議会民事執行法部会で民事執行法制の見直しに関する要綱案が決定された。
 この最大の注目点は 金融機関などから債務者の預貯金債権等に係る情報の取得の制度が新設されたことだ。

 相手に対する判決を取得したにもかかわらず相手が支払わない場合,判決を実現するためには,預貯金債権などを差し押さえる必要がある。

 しかし相手の預貯金を差し押さえるためには,これまで支店まで特定する必要があった。

 勝訴判決を取得した者にとって,相手がどこの銀行と取引があるかまでは推測できる場合であっても,どこの支店と取引があるかまでは分からない場合が多い

 この場合例えば A 銀行豊橋支店に差押えを行い残高ナシで空振りに終わった後、A 銀行岡崎支店に差し押さえをやった時には,もう預金は降ろされてしまった後ということになりかねない。

 典型的には原野商法などの消費者被害などの事件においては,判決で勝ったはいいが相手の会社は姿を消し,加害者関係者の預貯金を支店レベルで具体的に特定できず被害の回復ができないということが多い。

 預金者はキャッシュカード1枚あれば どこの支店でもコンビニであっても,預貯金をおろせるのだから、 預貯金の差し押さえなさい 支店まで特定せよというのが 不合理そのものである(勝訴判決 が紙切れになることを強要しても金融機関 の秘密を守る利益の方が 上回ると言う国策を取るのであれば,不合理とは言えないのかもしれないが)。

 この間,高等裁判所レベルでは具体的に支店名まで特定しなくても預貯金の差し押さえを認める裁判例も存在した。

 しかし最高裁はこのような考え方を一貫して否定し続けている(最高裁平成25年1月17日第一小法廷判決など)。

 この問題はもはや立法的に解決されるほかない

 今回の読んだ要綱案は,債務者の預貯金に関する情報を取得できるという点においては 上記問題の解決方法として一定の前進であるということはできる。

 しかし情報の提供は差押えそのものでないのだから、 金融機関の担当者が,お得意様にこっそり情報の取得に関する決定がなされたことを伝えてしまう可能性は否定できない。
 また、情報提供 された時は,情報提供されたことが債務者にも 通知されてしまうのだから、それから現実の差押えを行う前に 預貯金が下されてしまうリスクも否定しきれないのではないか?

 今回の改正案でも,勝訴判決を取得した者の権利の実現よりも,やはり金融機関の便宜に大きく寄っていると言わざるを得ない。
 手間暇費用をかけて勝訴判決を取得した者の保護という点において 、 東京高裁や大阪高裁が果敢に示した

「 全店一括順位付け方式」
(取扱店舗支店名で特定せず全ての支店を対象として順位付けをする特定方法)や

「預金額最大店舗指定方式」
(金融機関の全店を対象にしてその中で預金債権額の最も大きな店舗の預金債権を対象とする特定方法)(いずれも後に最高裁によって否定された)

に,遠く,遠く,遠く,遠く,遠く,遠く及ばない 。





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