料理と法律②

料理と法律②

僕が唯一 自分で作って自分で美味しいと感じられる料理が「カレー」である。

炒めて煮る。

ある時美味しいカレーを作りたいと思い立ち、カレーや香辛料に関する書籍や文献を渉猟し、 その情報を適宜取捨選択しながらで試行錯誤を繰り返し、 ある程度自分でも納得できる味に仕上がった。

アイデアと知識と情報があれば、 素人レベルでは、十分美味しいカレーができた。

法律家は紛争解決するために、 法律以外の広く浅い知識を必要とする。
車両の破損状況などから進入角と速度を推定するため、 質量保存の法則やエネルギー量保存の法則
現場に遺留された痕跡と被告人との結びつきを示すDNA鑑定など
毒物の分析に必要となる、NMRやLCMSなどの成分分析

法律家はそれらに関する専門知識はなく、自分で実験などができるはずもないが、 事件で必要となった時は、専門家の意見を聞き、専門書や論文などを読みまくって、 素人的に料理をして文章を書き上げる。

自分で書いていて牽強付会であると思うが、 意外とカレー作りに似ている。

さて美味しいカレー作りに不可欠な、 香辛料の配合などは立派なアイデアである。

このアイデアに法的保護は与えられるのだろうか?

料理と法律①で書いたように、 著作権法で保護するのは表現であり、アイデアそのものには、著作権法上の保護は与えられない。

アイデアに対する保護は、 特許権ないし実用新案権を 検討することになろう。

特許は、発明者に対し、その発明公開の引換に、その発明の独占権を与える制度であり、発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条)と規定されている。

実用新案も「自然法則を利用した技術的思想の創作」(実用新案法第2条)である考案を保護ものであるが、保護の対象が「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法第3条)とされている。
発明の対象とする特許が 特許庁による実質審査がなされるのと異なり、考案を特許制度よりも早期に簡易に保護できる制度となっている。

料理のアイデアであっても要件を満たせば、 特許あるいは実用新案を対象となりうる。

しかし大抵の料理のアイデアは、 特許あるいは実用新案の要件であるところの、「新規性・進歩性」を満たさないだろう。
そして、特許権や実用新案権の独占権を、現実に行使できなければ、 特許あるいは実用新案権の取得を目指すことはアイデアを単に社会に公開するだけで終わってしまう。

また特許権や実用新案権は業として実施する者に対し、 差止や損害賠償をするものであるから、 家庭で実施することに対して独占権は及ばない。

老舗の秘伝のタレなどが、 アイデアを公開して特許や実用新案を取得することを目指さず、 秘密主義に徹するのも このあたりに理由があると思う。

また、 特許や実用新案を取得するための「アイデア」を、 例えば「風味豊かなカレーの作り方」と広くすると、 そのアイデアは、新規性・進歩性を満たさないということになるであろうし、「〇を▲%、□を●%、▲を☆%で配合し〜した上、、」などとすれば、 特許権実用新案権は認められるかもしれないが、しかし、その場合特許権や実用新案権で独占権が与えられるのは「〇を▲%、□を●%、▲を☆%で配合し〜した上、、」と言う 範囲に限られる可能性が高いため、 香辛料の配合を少し変えれば、 保護の範囲から外れるという結果になりかねず、 何のための特許権・実用新案権取得だったのか よく分からないという結果になり得る。

料理に関する特許などを見ると、 いくつか年金不納による消滅、 権利の抹消という記載が見られる。
特許は独占権を与える代償として、毎年年金を払わなければその独占権を維持できないが、 特許取ってはみたものの現実に、 差し止めや損害賠償をと言った独占権を行使できる場面がなく、ほとんど実益がなかったということなのかもしれない。
(もっとも現実に差止や損害賠償ができなくても「特許取得」と書くことで、広告宣伝の効果を狙っていたのかもしれないが)












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