趣味と法律(模範演奏と音楽的著作権 JASRAC vs YAMAHAを題材に)

趣味と法律(模範演奏と音楽的著作権 JASRAC vs YAMAHAを題材に)



過日,友人に誘われ,「スタンウェイ」を弾いてきました。曲目は,ショパンのワルツ10番(OP69-2)。かつて映画「ラ・マン」の最後に使われた曲です。

ワルツ10番 ミスだらけの演奏

これも法律的思索の1プロセスと考えれば下手な演奏をあえて晒すのも全くの無意味とは言えないのではないか、、、と言い訳しつつ。

我が愛読書,マキャヴェリ「君主論」に,

「アカイアの君主フィロポイメンについては、従来、著述家からいろいろの賛辞が寄せられたが、とりわけ彼が平時にあっても、戦術のことしか念頭になかった点がほめられている。友人と野外にでかけたとき、彼はたびたび立ちどまって、こう論じあったという。(中略)彼は、こうしてたえず反省を繰り返したから、自分で軍隊の指揮をとったとき、どんな突発的な出来事に遇っても、いちども対策に窮することがなかった。」(中公文庫 池田廉訳)

という一節があります。
これを法律家に適用すれば、いついかなる時も、趣味のピアノを楽しんでいる時でも,「法的に」考えることを怠らないことになるでしょう。

JASRAC(日本音楽著作権協会)が著作権使用料を取る対象に音楽教室を加えるという方針を発表しました。これに対して,音楽教室最大手のヤマハが猛反発。JASRACに対して,著作権の使用料を支払う必要はないという事を確認してもらう為の裁判を東京地裁に起こしました。

JASRACは,作曲家など音楽を作ってその著作権を持っている人から委託を受けて,その音楽などを利用する人などから料金を支払ってもらい,それを作曲家などに分配すること等を業務としている団体です。

音楽教室が作曲家の音楽などを使った場合,その使用料を払う必要はあるのでしょうか。これまで音楽教室などが生徒さんにレッスンで先生が演奏するなどしても使用料を払うという事はなされてこなかったため,今回新たにJASRACが使用料を取るということについて,音楽教室などは強い反発をしているようです。

なお,ほとんどのクラシック音楽は,既に著作権が切れているため,ここで問題となるのは,J-POPのように現在も著作権が生きている曲の利用です。

このニュースを題材に,何が問題となるのか考えて行きたいと思います。

音楽を作った人というのは演奏権,その音楽を演奏する権利というものがあります。例えば,作曲家が優れたピアノ曲を作曲し,ピアニストがそのピアノ曲を演奏する場合,演奏する人は作曲家に使用料を払わなければなりません。

1 一部演奏と著作権

ピアノ教室での模範演奏は,ほとんどが,その曲の「一部」を演奏するものです。
このように,一部利用でも演奏権侵害になるのでしょうか?

例えば,J-POPのサビ部分,つまり音楽の一部を,勝手に利用することは,やはり作曲家の権利を侵害することになり許されません。
一部分であっても,音楽として成り立っている部分を勝手に演奏すれば,原則として,作曲家に対する演奏権侵害となります。

もっとも,その一部が単純な音階の繰り返しなど,音楽として成立していない場合,演奏権侵害は発生しないと考えられます。

なぜなら,そのような場合でも,作曲家の著作権を侵害しているとなってしまうと,誰も音階の繰り返しを利用できなくなってしまう恐れがありますからね。

もっとも,ベートーヴェンの「運命」の冒頭のように,単純でも音楽として成り立っている場合もあり,その区別は非常に難しいです。

2 学芸会や音楽の授業での演奏

演奏が,作曲家の演奏権侵害に当たると言っても,
「非営利」かつ「無料」かつ「無報酬」の演奏は,演奏権侵害に当たりません。

小学校の学芸会での発表や,音楽の授業での歌唱などがこれに当たります。
もっとも,無料かつ無報酬であっても,広告宣伝用の演奏の場合,営利目的があるとされることもありますので,注意を要します。

3 音楽教室での模範演奏

自宅で友人などに聞かせる場合,技術の解説などに楽曲を使う場合はどうでしょう?
著作権法上の演奏権は公衆に聴かせることを目的とする演奏に限られます。

音楽教室の例でいうと,先生の模範演奏について,
① 音楽教室の生徒が「公衆」に当たるかという問題と,
② レッスンで教えるための演奏が公衆に聴かせることを「目的」とした演奏に当たるかという事が問題となるのです。

報道等によれば,音楽教室側は,この2点,特に,音楽教室の講師の演奏は,技能の伝達が目的であり,聴かせることを「目的」とした演奏ではないと主張しているようです。

4 著作権法の目的

著作権法というのは,音楽などの文化の公正な利用と著作権者の保護を図り,文化の発展に寄与することを目的とするとされています。

一面では,今回の措置は音楽教室の衰退に結び付くという点も指摘されています。
一方で,作曲する行為というのは,作曲家の労力,営為,才能すべてを総合して作られるものであり,作曲家の作った音楽を利用するのであれば,それに対する対価が作曲家に支払われることが,優れた音楽を生み出す原動力になるという面もあるかと思います。

私自身は,音楽教室での先生の模範演奏は,聴かせることを「目的」とした演奏ではなく,「悪い見本」も示しながら,技術を伝達していくものではないかという思いもあり,私は、心情的には音楽教室側よりの意見を持っています。

いずれにせよ,裁判の行方を見守りたいと思います。


このブログの人気の投稿

バックカンリースキーと「奇跡の自然」~2022-23シーズンまとめ~

菊地令比等法律事務所について

性悪説と法律