【倒産】から学ぶ(読書日記)
【倒産】から学ぶ(読書日記)
普段法律書と専門書しか読まず、 ましてビジネス書など より一層読まないけれどもたまたま手に取った本の タイトルに惹かれて 読んでみた。
〇〇すると△△がうまくいく(うまくいった) という成功談は往々にして、 本人の経験談が 語られているに過ぎず、 そこにはうまくいくに至った所与の前提(人口増に支えられた需要増など時代的要因、恵まれた容姿や家族の所得などそもそものアドバンテージなど)が記載されず、あたかも、〇〇したことが△△がうまくいく(うまくいった)ことの原因であるかのような記載がなされることが多い。
成功談は読んでも聞いても爽快だし、気分も高揚する。
しかしながら、△△がうまくいったことの主要な要因が、本当に〇〇だったのかという疑問は常に付きまとう(もしかしたら、たまたま【当たった】だけかもしれないし、そもそも〇〇にチャレンジできたのは潤沢な経済的余裕のおかげだったのかもしれない。)
一方で失敗の原因というのはかなり 共通点が見られる。
破産管財人をしていると、 破産会社の決算書などを並べて眺めることが多いのであるが、 ある程度の経験則として次のような傾向を見いだすことができる。
①複雑かつ複合的な様々な要因が絡み合って事業は順調に成長していく(成功談はこの要因の一つあるいは複数として語られることが多い)。
②事業成長は、売上増加とキャッシュイン増加を生む。
③これが会社の利益額と社長の報酬額の増加に直結する。
④しかし売上増加とキャッシュイン増加は多くの場合 コストの増加も伴い利益【率】の減少を伴う。
⑤法制度の変更や社会情勢の大きな変動、あるいは大きなイベントにより、売上が急減した場合、 コストの増加が経営を直撃し キャッシュフローのパンクに陥り倒産に至る。
ある時期、 かなりの数の破産事件で⑤に「リーマンショック」と言う言葉が使われていたのを思い出す。
今回読んだ「世界倒産図鑑」は、 倒産の要因を
A 過去の亡霊型(そごう、GM、Kodakなど)
B 脆弱シナリオ型(エンロン、三光汽船など)
C 焦りからの逸脱型(山一証券など)
D 大雑把型(NOVAなど)
E 機能不全型(コンチネンタル航空、タカタなど)
に分類して 整理していくものである。
この整理には、僕自身異論もあり、 記述内容も 全面的に賛同できるわけでもないけれども、 25の事例を簡潔に まとめて 読めたのは 有意義だった。
しかし、 売上が落ちた月などは、 僕自身、 事務所の基本方針としてやらないと決めた仕事を「やっぱりやるべきかな」 などと焦るときもあり、 そのような焦りが壮大な規模で倒産に向かって行った山一証券の事例を読むと、 背筋が冷える。
また、④のプロセスで利益【率】に拘るあまり、人切りをやった結果、衰退していったコンチネンタル航空の事例は「v字回復」後の衰退という困難な問題をはらんでいる。
爽快な読後感はない。
読後「歴史は繰り返す。」「人間性は進歩しない。」と言う箴言とともに、マキャベリの次の言葉を想起した。
衆に優れた人物は、運に恵まれようと見放されようと、常に態度を変えないものである。
運命は変転しても、彼らは毅然とした精神を保ち続けているので、他人の目には、運命もこの人々には何の影響も与えないのではないかとさえ、見えるほどだ。
反対に弱い人間にとっての運命の変転は、表に現れてしまう。幸運に恵まれたときは有項天になり、まるで自分個人の力量のためであるかのように得意がる。
そして、周囲には耐えがたい存在になった挙句に憎まれる。ところが、程なく運にかげりがさし始めるや、とたんに沈み込んでしまい、卑屈な人間に変わり果てる。
この性向は、君主の場合であればなお悪い結果をもたらす。逆境に見舞われたこのタイプの君主は、それから防衛することなど考えず、逃げることしか頭になくなる。
しかも、このタイプの君主は必ず、幸運に恵まれていた時期にそれをうまく利用し、逆境に入ったときの防衛策にしていないのだから、状況は最悪だ。
自戒を込めて。