ブラームスと「ハンガリー舞曲」裁判
ブラームスのハンガリー舞曲 をご存知だろうか?
元々は ピアノ連弾用として発表され、その後 管弦楽用などに編曲されていった。
2023年3月26日小学1年生になった長男との思い出作りのために【子ども音楽会】で、ブラームスハンガリー舞曲第5番を 連弾してきた。
さて素人親子の拙い演奏をさらしたついでに、弁護士らしく法律ネタをひとつ(笑)
このブラームスのハンガリー舞曲集、ブラームスの発表当時、ブラームスがレメーニの著作物を勝手に使ったということで、レメーニから裁判を起こされているのである。
もちろんブラームス当時の著作権法と、現代の著作権法では考え方が違う部分も多い。しかし、このブラームスハンガリー舞曲訴訟は、現代の著作権法に照らしても「ありがちな」争点及び判断となっているのである。
ハンガリー舞曲はジプシー音楽(ツィゴイネルワイゼン)の形式に沿い、チャールダッシュの形で作られているものが多い(緩やかな部分と急速な部分を続けた舞曲)。
ブラームスはバイオリン奏者のレメーニと演奏旅行に出かけた時にこのような ジプシー音楽に興味を持ち ハンガリー舞曲集をまとめ上げていったと言われている。
しかしレメーニは、ブラームスのハンガリー舞曲集の大ヒット後、ブラームスが自らの著作権を侵害していると ブラームスを訴えたのである。
裁判の結論は、ブラームスがハンガリー舞曲集を「作曲」ではなく「編曲」として発表したこと、元となるメロディーの作曲者(著作者)が誰にあるかわからないということで ブラームスが勝訴した。
これを 現代の著作権 訴訟に当てはめてみるとなかなか面白い。
元々のメロディーの作曲者が誰かわからないとしてもバイオリニストであるレメーニが演奏するにあたっては それなりにアレンジをしていたのであろう。
ブラームスがハンガリー舞曲集を発表するにあたって、レメーニのアレンジ の創作部分を利用しているのであれば、それはレメーニ の著作権を侵害したと言いうる。
しかしながら、レメーニの創作部分を利用していないのであれば、著作者がわからない 著作物を利用したにすぎずレメーニの 著作権を侵害したとは言えない。
この裁判を現代風に整理すると次のようになる。
① ブラームスが利用した旋律は著作物か?
※単なる音階の羅列や和音の連なりなど、表現に創作性が認められないものはそもそも 著作物ではない。
② ブラームスが利用した旋律の著作者はレメー ニか?
※おそらくおそらくこの裁判は この論点で決着をしたものと思われる。
ただし現在の裁判であれば 次の点も重要な 争点になると思う。
③ 著作者が不明な旋律をレメーニもアレンジメントしているとすると、ブラームスはそのレメーニの創作的表現 部分を利用しているか?
これはメディアミックスの場合、原作小説を漫画化し、さらにそれを漫画のキャラを利用してアニメ化する場合など、そのアニメは原作小説の創作的表現 部分と、漫画の創作的表現 部分を両方利用するため、アニメ化はたとえ 原作小説の著作者が不明でも、漫画の著作者の許可を取らなければならないのに類似している。
もちろん ブラームスハンガリー舞曲 裁判の記録を閲覧したわけでもなければ 判決文を精査したわけではないので、ブラームスハンガリー舞曲 裁判に関する上記記述は、推測の域を出ない。
子供との連弾を作り上げる過程で歴史や音楽の創作的表現性を、子供に語ることができたのは、親として得がたい喜びであった。