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バックカンリースキーと「奇跡の自然」~2022-23シーズンまとめ~

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 バックカンリースキーと「奇跡の自然」~2022-23シーズンまとめ~ シベリアからの乾いた冷たい風が日本海で水分をたっぷり含む、そしてその風が3000m級の山々にぶつかり雪を降らせる。日本ほどの低緯度で日本ほど雪が降り積もる地形は世界的に珍しい。日本はスキーヤーにとっては奇跡の地なのであろう。 2022-2023シーズンは、11月末の立山に始まり、GWの白馬まで、山に20日以上入ることができた。 テントの中で弁論要旨を起案をしたり(録音データを飛ばして事務局が書面化)、白馬栂池リフトトップからハイクアップ中に警察署に電話したり、と仕事に追われている時は、我ながら何をやっているのだろうと思いながら、シーズン怪我無く過ごせた。 以下は、今シーズンのまとめ動画である。 https://youtu.be/7AUIN2JhbYA https://youtu.be/3QyzUNL26Nk

観劇日記「紫式部異聞」

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忙しさにかまけ だいぶ前のことになってしまったが、劇団四季で長く活躍された畏友天野陽一さん率いるAMSの「紫式部異聞」の観劇 日記を記しておきたい。 舞台芸術はとかく制約条件が多い。それは金銭的な場合もあるし 金銭的でない場合もある。 例えば1800年代後半 パリで隆盛を極めた グランドオペラ などはよく 第2幕でバレエが用いられたが、それは劇場のパトロン貴族が飲み食いした後 遅れて 劇場にやってきた時に、貴族の愛人である ダンサーが 第2幕で踊り始めるといった「経済的理由」があったようである(それを打ち壊したのがワーグナーの「タンホイザー」であると言われる。ワーグナーが芸術至上主義たり得たのは ルートヴィヒ2世という経済的制約を無視しうる パトロンがいたことも無視し得ない)。 また人気歌手を活躍させるためのドラマとは 必ずしも関係があるとは言えないアリアなどもそのような例と言えよう。 AMS の舞台は、スタジオの発表会でもあり 純粋にドラマのみの要請で劇を推し進めることは難しいし無理であろうと思う。予算も無限ではない。 しかしながら今回 紫式部異聞を見ていて心から驚嘆したのは、AMS の生徒さんにしかるべく 役を与えながら ドラマの流れが全く中断されていないという、恐るべき完成度であった。 天野陽一さん扮する権力者 藤原道長がその娘を帝の后にする、その娘につける 女官として 紫式部を配する中で「素晴らしい物語」 を集めていくというプロット、この物語集めの中で、ドラマを阻害することなく生徒さん一人一人に見せ場を与えていく天野さんの構成力はさすが であると思う。 歌と踊りも天野さんの踊り、ゲストダンサー「バレエ」でありながらドラマに必然性を与える踊りはもちろん、帝や彰子なども素晴らしかった。 プロデューサーとして 舞台の構想から(資金集めも含めた)計画、歌手・俳優として舞台に立ち、音楽から美術から指導まで全て成し遂げ、音と歌と踊りとドラマと美術の融合体 である総合芸術を作り上げた畏友天野陽一さんに、惜しみない賛辞を送りたいと思うと共に、やはり「次」も期待してしまうのである。

ブラームスと「ハンガリー舞曲」裁判

ブラームスのハンガリー舞曲 をご存知だろうか? 元々は ピアノ連弾用として発表され、その後 管弦楽用などに編曲されていった。 2023年3月26日小学1年生になった長男との思い出作りのために【子ども音楽会】で、ブラームスハンガリー舞曲第5番を 連弾してきた。 https://youtu.be/c5_KG1HGL00 さて素人親子の拙い演奏をさらしたついでに、弁護士らしく法律ネタをひとつ(笑) このブラームスのハンガリー舞曲集、ブラームスの発表当時、ブラームスがレメーニの著作物を勝手に使ったということで、レメーニから裁判を起こされているのである。 もちろんブラームス当時の著作権法と、現代の著作権法では考え方が違う部分も多い。しかし、このブラームスハンガリー舞曲訴訟は、現代の著作権法に照らしても「ありがちな」争点及び判断となっているのである。 ハンガリー舞曲はジプシー音楽(ツィゴイネルワイゼン)の形式に沿い、チャールダッシュの形で作られているものが多い(緩やかな部分と急速な部分を続けた舞曲)。 ブラームスはバイオリン奏者のレメーニと演奏旅行に出かけた時にこのような ジプシー音楽に興味を持ち ハンガリー舞曲集をまとめ上げていったと言われている。 しかしレメーニは、ブラームスのハンガリー舞曲集の大ヒット後、ブラームスが自らの著作権を侵害していると ブラームスを訴えたのである。 裁判の結論は、ブラームスがハンガリー舞曲集を「作曲」ではなく「編曲」として発表したこと、元となるメロディーの作曲者(著作者)が誰にあるかわからないということで ブラームスが勝訴した。 これを 現代の著作権 訴訟に当てはめてみるとなかなか面白い。 元々のメロディーの作曲者が誰かわからないとしてもバイオリニストであるレメーニが演奏するにあたっては それなりにアレンジをしていたのであろう。 ブラームスがハンガリー舞曲集を発表するにあたって、レメーニのアレンジ の創作部分を利用しているのであれば、それはレメーニ の著作権を侵害したと言いうる。 しかしながら、レメーニの創作部分を利用していないのであれば、著作者がわからない 著作物を利用したにすぎずレメーニの 著作権を侵害したとは言えない。 この裁判を現代風に整理すると次のようになる。 ① ブラームスが利用した旋律は著作物か?      ※単なる音階の羅列や和音

雪崩事故を巡る「過失」の構造

那須雪崩事故を巡る「過失」雑感 以前記載した「山岳事故における法的責任」において、山岳事故における過失を巡る考え方を概観した。 山岳事故における法的責任 今回は、以下の那須岳雪崩事故の裁判の報道に接し、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りしたい。 そして、雪山を愛する一弁護士として、本件における「過失」のとらえ方について所感を述べたいと思う。なお、高校生と教諭という属性が、自己決定、危険の引受という観点から、結論にどのような影響を与え得るかという点については、前稿「山岳事故における法的責任」をご参照いただきたい。 https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/649359?newsletter   報道で気になったのは、起訴状の内容に関する報道である。報道によれば、起訴状記載の公訴事実(この裁判の対象)には、概ね次のことが記載されているようである。 「起訴状は、17年3月27日朝、那須町湯本のスキー場周辺で、重大な雪崩事故発生が容易に予想されたのに、安全確保のための情報収集と措置、訓練区域の設定を行わず漫然と深雪歩行訓練を実施して雪崩で8人を死亡させ、生徒5人にけがをさせた、としている。」 「副委員長の教諭と後続の班を引率していた教諭については、訓練中にそれぞれ雪崩発生が予想される斜面を認識したのに、生徒に危険箇所を回避するよう明確に指示するなどしなかった、ともしている。」 過失とはごくざっくりというと、結果予見可能性、結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反である。 起訴状によれば、この点、多岐にわたっている。 その日の天候、積雪状況から重大な雪崩事故発生が容易に予想された、とか、雪崩発生が予想される斜面を認識したのに、 ①安全確保のための情報収集をしなかった ②安全確保のための措置を取らなかった ③安全確保のための訓練区域の設定を行わなかった ④深雪歩行訓練を中止しなった(実施してしまった) ⑤生徒に危険個所を回避するよう明確に指示しなかった 多岐にわたる「しなかった」のうち、何を本件における「過失」と捉えるべきなのか?ひとつなのか?複数なのか?全部なのか? 刑事裁判が処罰を巡るものである以上、この点あいまいにすることは許されない。 本件は、事故発生後、同じく雪山での山行を共にする弁護士と様々な議論をした。プロの山岳ガイド

山岳事故における法的責任

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山岳事故における法的責任 (目  次) 1 はじめに 2 責任と法的責任  ⑴ 責任と法的責任の区別 ⑵ 法的責任とは何か ⑶ 法的責任の 3 類型 ⑷  3 つの法的責任の関係 3 山岳事故における法的責任=「過失」  ⑴ 責任の発生原因について ⑵ 民事及び刑事上の過失責任が生ずる要件 ⑶ 民事上の責任と刑事上の責任との差異 ⑷ 「過失」と「安全配慮義務違反」 4 過失の意義及び自己責任諭や危険の引受  ⑴ 自己責任論や危険引受の射程の温度差 ⑵ 過失の意義 ⑶ 注意義務の成立要件 ⑷ 過失と危険引受及び自己責任論との関係 ⑸ 各登山類型による危険引受の違い 5 裁判例検討 ⑴ 学校引率登山  ⑵ 大日岳訴訟  ⑶ ガイドによる引率登山  ⑷ 成年による自主登山 6 結語 1 はじめに  ⑴ 本稿では,山岳事故における法的責任について私見を述べる。 山岳事故における登山に危険はつきものであり,それが本質であるとすれば,どれだけ安全を志向しても,登山における事故は不可避であり,山岳事故における裁判例も集積される。 ⑵ 本稿では,まず,山岳事故における「法的責任」とは何かについて諭ずる。 その上で,登山において語られる「自己責任」や「危険の引受」が,山岳事故における法的責任を語る上で,どのように位置付けられるのかについて論ずる。 そして,それらを踏まえ,山岳事故等における裁判例を概観する。 2 責任と法的責任 ⑴ 責任と法的責任の区別 ア 責任という言葉は,政治的責任,道義的責任,倫理的責任と言ったように,非常に多義的に使われる。したがって,法的責任について論ずる場合,まず,法的責任が,他の政治的責任,道義的責任などと,どのように区別されるか明らかにする必要がある。 イ 山を愛する者は,登山における倫理観,道徳観を持っており,登山は,その倫理的規範,道義的規範の中で行われることが多い。 そこでは,例えば,「危険な冬山に行く以上,その危険は自ら引き受けるべきであり,事故が生じてもそれは自己責任である。」という文脈が用いられる。 それは,山を愛する者の倫理的規範,道義的規範としては説得力を有す

その金、どこいった!!!(弁護士業務と粉飾決算)

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その金、どこいった!!!(弁護士業務と粉飾決算) 民事訴訟は、つまるところ「お金の問題」に帰着する。 その意味で、お金の流れを追うことが重要な作業になることが多い。 また刑事訴訟でも、経済事犯の場合、やはりお金がどのように流れたかを追うことが必要となる。 お金の流れを追うに当たって、基礎資料となるのは、やはり損益計算書、貸借対照表、総勘定元帳などの帳簿書類である。 資本主義における経済活動は、つまるところ、 「金を集めて、投資して、利益を上げる」という点に帰結する。 これを、普段よく目にする決算書類に落とし込むと、次のとおりとなる。 ⑴  お金を集める=BSの右側  ア  負債の部(借入等の他人の金)  イ  純資産の部(株主資本等自分の金) ⑵  お金を投資する=BSの左側  資産の部(集めたお金で工場建物機械設備を買う) ⑶  工場建物機械設備を使って売上て、経費を支払い利益を上げる=損益計算書 この、決算書類の作るために行う複式簿記は、非常にすぐれものであり、 「純資産」「負債」「資産」「収益」「費用」の、わずか5つの項目だけで、すべての取引や事象を説明できる。 さらに、たったひとつの取引であっても、その取引が、「金を集めて、投資して、利益を上げる」という経済活動全体のどの部分に位置づけられるのかが明確に分かる。 備品のボールペンを買う行為は「資産」としての現金が減り、「費用」に計上された結果、純利益が減り「純資産」の減少につながる。 総勘定元帳や決算書類は、決して数字の羅列ではない。 複式簿記をゲーテは、 「真の商人の精神ほど広い精神、広くなくてはならない精神を、ぼくはほかに知らないね。商売をやってゆくのに、広い視野をあたえてくれるのは、複式簿記による整理だ。整理されていればいつでも全体が見渡される。細かしいことでまごまごする必要がなくなる。複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。人間の精神が産んだ最高の発明の一つだね。」(ヴィルヘルム・マイスターの修行時代)と評したが、全く頷ける。 さて、この複式簿記によって作られた決算書類であるが、粉飾決算もよくなされる。 この粉飾の痕跡を見出すことは、たとえば破産事件などにおいて、破産者の隠し財産を探す際にも必要であるし、詐欺的な商品を販売

「誤差」と弁護士

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「誤差」と弁護士 誤差(ごさ、error)は、測定や計算などで得られた値 M と、指定値あるいは理論的に正しい値あるいは真値 T の差 ε であり、ε = M - Tで表現される(ウィキペディアより)。 さて,この「誤差」の概念は,常に弁護士業務とは切っても切り離せない関係にある。 正確には、「誤差」ではなく、「不確かさ」と言うべきかもしれないが。 たとえば,自動車運転過失致死傷罪や,危険運転致死傷罪,または交通事故損害賠償などで,交差点への進入速度を算定し,その交差点への進入速度から「過失」や「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」該当性が争われることがある。 この場合,速度については,当事者言い分が真っ向から食い違うことがある。 そうすると,交差点進入速度は,車両損傷状況や,路面状況から推定していく他ないことになる。 この場合,現場に残された痕跡は,「事故後の状況」であるため,現場に残された痕跡から,まず,衝突直後の速度を推定し,衝突直後の速度から衝突直前の速度を推定していくことになる。 具体的には,車両変形状況やガードレール等の変形状況から,衝突時に生じたエネルギー量を推定し(加害車両のエネルギー量を「E1」,被害車両のエネルギー量を「E2」ととする),車両重量(加害車両重量を「M1」,被害車両重量を「M2」とする),衝突から停止までの距離(加害車両を「L1」,被害車両を「L2」とする),タイヤと路面の摩擦係数(加害車両の摩擦係数を「μ1」,被害車両の摩擦係数を「μ2」とする),重力加速度(「g」とする)から,エネルギー保存の用いて,衝突直後の速度を推定していくこととなる(加害車両の衝突直後の速度を「u1」,被害車両の衝突直後の速度を「u2」とする)。 このことから,以下の式が導かれる。 (この関係を理解するために,高校の先生や研究者の下に通ったことを付記しておく) そして,衝突直後の速度と,衝突直前の進入角(加害車両直前進入角を「θ1」,被害車両直前進入角を「θ2」とする),衝突直後の進行角(加害車両直後進行角を「φ1」,被害車両直後進行角を「φ2」とする)から,運動量保存の法則を用いて,衝突直前(≒交差点進入)の速度(加害者車両を「V1」,被害車両を「V2」とする)を推定していくことにな