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山岳事故における法的責任

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山岳事故における法的責任 (目  次) 1 はじめに 2 責任と法的責任  ⑴ 責任と法的責任の区別 ⑵ 法的責任とは何か ⑶ 法的責任の 3 類型 ⑷  3 つの法的責任の関係 3 山岳事故における法的責任=「過失」  ⑴ 責任の発生原因について ⑵ 民事及び刑事上の過失責任が生ずる要件 ⑶ 民事上の責任と刑事上の責任との差異 ⑷ 「過失」と「安全配慮義務違反」 4 過失の意義及び自己責任諭や危険の引受  ⑴ 自己責任論や危険引受の射程の温度差 ⑵ 過失の意義 ⑶ 注意義務の成立要件 ⑷ 過失と危険引受及び自己責任論との関係 ⑸ 各登山類型による危険引受の違い 5 裁判例検討 ⑴ 学校引率登山  ⑵ 大日岳訴訟  ⑶ ガイドによる引率登山  ⑷ 成年による自主登山 6 結語 1 はじめに  ⑴ 本稿では,山岳事故における法的責任について私見を述べる。 山岳事故における登山に危険はつきものであり,それが本質であるとすれば,どれだけ安全を志向しても,登山における事故は不可避であり,山岳事故における裁判例も集積される。 ⑵ 本稿では,まず,山岳事故における「法的責任」とは何かについて諭ずる。 その上で,登山において語られる「自己責任」や「危険の引受」が,山岳事故における法的責任を語る上で,どのように位置付けられるのかについて論ずる。 そして,それらを踏まえ,山岳事故等における裁判例を概観する。 2 責任と法的責任 ⑴ 責任と法的責任の区別 ア 責任という言葉は,政治的責任,道義的責任,倫理的責任と言ったように,非常に多義的に使われる。したがって,法的責任について論ずる場合,まず,法的責任が,他の政治的責任,道義的責任などと,どのように区別されるか明らかにする必要がある。 イ 山を愛する者は,登山における倫理観,道徳観を持っており,登山は,その倫理的規範,道義的規範の中で行われることが多い。 そこでは,例えば,「危険な冬山に行く以上,その危険は自ら引き受けるべきであり,事故が生じてもそれは自己責任である。」という文脈が用いられる。 それは,山を愛する者の倫理的規範,道義的規範としては説得力を有す